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2013-02-04 Monday 00:00

snake_3

今年の正月は全く実感がないまま、元旦から小学校(僕は未だにそう呼んでいる)に出かけ、飛行機モデル(ソラシドエア)の設計に取り掛かった。

天気が良くてそれなりに気持ちのいい三が日だったが、以来ひと月こんな調子で休日出勤の日々が続いている。それでも、休みの日の仕事場はとても気持ちがいい。
電話が無いし(鳴っても取らないし)、来客も無い、そもそも社員が居ないので指示を出すことも、相談を受けることも無い。普段、丸一日かかる仕事が3時間で仕上がる。だから、休日の仕事場は僕にとって何よりも居心地の良い場所だ。

ご存知の通り、僕たちが仕事場にしているのは大分県国東半島の廃校になった小学校、僕のデスクがあるのは旧職員室の一角だ。各教室には前後に黒板がありなにかと重宝している。その職員室の黒板に、正月からこの新聞が貼付けられている。

「紙之新聞」元旦号の第一面、今年の干支をモチーフにしたd-torso「蛇段(へびだん)」のモノクロ写真である。正月一日らしからぬオドロオドロしい紙面ではないか。もちろん掲載してもらったのはとても嬉しいのだが、「よく載せてくれたなあ」と思わなくもない。表題「紙之新聞」の字体も雰囲気がありすぎる。

この「紙之新聞」は、(株)紙之新聞社が発行する業界新聞だ。昨年末連絡を頂いて電話でやりとりし、この写真を送った。「正月号で使いたい」という事は聞いていたのだが、まさかこんなに大きくなるとは思っていなかった。本文は短いので以下に書き出してみよう。

蛇と弁天

今年は巳(蛇=ヘビ)年。日本では古来より、蛇を豊穣神や天候神など信仰の対象として崇めてきた。それは、蛇が長生きすることや、蛇の脱皮が”復活と再生”を連想させることなどが原因のようだ。
”神の使い”として崇められてきた蛇を神として祭った神社は全国各地にある。例えば、七福神のひとつ、弁財天は蓄財と芸能の神だが、蛇の形をした神として祭られていることも多いという。
写真は、アキ工作社段ボール製組立て式立体年賀状「蛇と弁天(弁財天)」。同社は干支シリーズとして、巳年にちなんでヘビを人(弁財天)と組み合わせたペーパークラフトを製作した。「日本では、ヘビは古くから貧困を救い財物を与える天女、弁天の使いと言われている」ことがモチーフになっている。
さて、景気低迷などで暗い世相の日本が、今年は干支の巳のご利益で「復活・再生」となりますか。

商品発売のときに僕らが配信したニュースリリースより、うまくまとめている。さすがプロフェッショナル。

……残念ながら「蛇段」はあまり売れなかった。これは昨年の「龍段」と比較してのことだ。売上げは前年比の三分の一というところだろう。

僕らは毎年、干支モチーフのd-torso立体年賀状を製作しているわけだが、形態的には干支動物のなかでもっとも派手な龍の次に最もシンプルな蛇がくるのは営業的にとても辛かった。最初は例年通り蛇だけでモデルづくりを進めていたのだが、龍と並べたときにあまり見劣りがするので、何かに巻き付かせることを考えた。いろいろ案はあったが最終的に選択したのはヒト(女性)だ。ヘビとヒトの関係性は、宗教的な文脈で語られることが多い。そして蛇は、女神、女(性)性、生、死、再生と結びつく。

僕の場合、ヘビと女の直接的なイメージはリドリー・スコット監督の映画「ブレードランナー」(1982年公開)に登場する女性型レプリカント、ゾーラ(ジョナサン・キャシディー)だ。劇中では早い段階でハリソン・フォード演じるデッカード刑事に仕留められるのだが、蛇と絡むゾーラのダンスは印象的だ。

ブレードランナー:ゾーラ
ブレードランナー:ゾーラ

さらに同じ映画ジャンルで連想するのはクエンティン・タランティーノ脚本、ロバート・ロドリゲス監督の「フロム・ダスク・ティル・ドーン」(1996年公開)のなかでサルマ・ハエックが演じる吸血鬼サンタニコのヘビダンスだろう。

フロム・ダスク・ティル・ドーン:サンタニコ
フロム・ダスク・ティル・ドーン:サンタニコ

どちらも美しく、過剰で、エロティックなイメージだが、なるほど、どちらも(強烈な)死のイメージと結びついている。

さて、「蛇段へびだん)について。

モデル化するにあたって、蛇のもっているシンプルな形態とそれに反する「過剰さ」とのギャップを埋めるために、弁天=女性像を登場させた。ここ最近のd-torsoのテーマ自体が、出発点に戻って「ヒトノカタチ」だということも大きな要因だ。

設計に関しては、大部分の時間を女性像のほうに費やすことになったが、この女性像自体は昨年5月ニューヨークで開催されたICFF2012のために起こしたモデルがプロトタイプとなっている。また蛇部分は「龍段」の形態のアナロジーで設計が進んでいった。創業から15年、最初のトルソーのデビューから数えると17年にもなるd-torsoは、やっと設計ライブラリーとして使える程度のデータの蓄積が出来てきたようだ。

昨年末の売上げがイマイチだったこの「蛇段」だが、モノとしての精度について僕自身はたいへん満足している。おそらくこの商品の開発から学んだことが先々の設計で活かされてくるだろう。とはいえ、営業的に「蛇段」で深手を負ったd-torso事業が「蛇=弁財天」の真のご利益によって、2013年巳年に「復活・再生」となりますか。多いに期待してみよう。

 

「蛇段」赤
http://www.d-torso.jp/snake125red.html